食べる順番と歯科治療

 定食やお弁当は好きではない物から順番に食べるクセが昔からあります。まずはわけのわからない漬物や酢の物、小鉢類を一気に片付けます。本当は味噌汁を1番最初に片付けておきたいところなのですが(私味噌汁が苦手なんです)猫舌なので中盤まで放っておきます。サラダや魚たちも早めに食べることが多いです。ある程度環境が整って(?)ひと段落した頃に肉に手を付けます。最後まで残るのは水かアイスコーヒーです。

  歯科治療の場合はどうか。浅いむし歯と深いむし歯があった場合、私は後者から手をつけることがほとんどです。理由はいくつかありますが、出来ることなら歯の神経を守りたい、治療期間中に進行するのを防ぎたいというのは(本音に近い)建前で、本音は厄介な処置を最初に済ませておいた方が精神的な安寧を得られるからなのです。定食やお弁当を食べる順番に通底する部分があります。まだ漬物がある…と思いながら肉を食べても心から愉しめません。歯科治療も同じで、神経を抜く処置が待っている…と思いながら浅いむし歯の治療をしても違和感を拭い去ることが出来ませんし、やり残したことがあると夢にまで出てくることもあります。要は私のメンタルの処理の問題なのですが、よくよく考えてみると患者さんと私の利害が一致していることも少なからずあるのです。

  歯科治療は回数がかかることが多いです。むし歯の数が多かったり歯周病が進行していたりすると1年以上治療期間がかかることも珍しくありません。最後まで治療に通ってくれる患者さんはなかなかレアです。全体の15%くらいでしょうか。お仕事が忙しかったり小さなお子さんが病気になったなど、止むに止まれぬ事情で中断せざるを得ないこともあるでしょう。このような場合、深いむし歯から治療を済ませておいたら、例え治療が中断になってしまってもその歯は神経を抜かずに済むこともあります。逆に浅いむし歯から治療を開始していた場合、深いむし歯はより深く進行してしまい、将来的には残せる歯も残せなくなってしまう確率が上がってしまいます。むし歯は深くなればなるほど非線形的に進行速度が増しますからね(歯は内側に向かえば向かうほど柔らかい構造になっているため)。つまり私にとってややこしくて面倒な処置を最初に行っていた方が、患者さん側にもメリットがあるのです。浅いむし歯の治療も深いむし歯の治療も同じ材料を使用する場合、頂く料金は変わりません。 もし我々歯科医師が楽をしたければ、浅いむし歯の治療から順番に始めて患者さんが治療を中断するまで待つ方がいいのでしょう。私の脳内で悪魔がそう囁くこともあります。でもそれでは患者さんのためにはならないですし、良心の呵責に引っかかるのです。
「患者さんは自分でむし歯や歯石を取れないから歯科医院に来ている。あんたが取らなくて誰が取る」と研修医の時に指導医の先生に言われた言葉が今でも金言として心に刺さっていたりします。

  少し内情を話すと、むし歯の治療は大変なだけで我々の実入りは実は少ないです。40-50分かけて麻酔を追加しながらむし歯と格闘して何とか神経を残せてセメントを詰めたとしてもお会計は数百円のこともあります。私は学生時代、時給2500円夕食付きで家庭教師をしていたことがありましたが、その頃に戻りたいと思うことも多々あります笑。大変なだけで報酬も少ない処置をまず優先してやることに対しては賛否両論あると思いますが、私は過去にむし歯で苦労した経験があるので患者さんには同じ思いをして欲しくないという考えが根底にあるのです。歯周病で苦労した先生であればまずは歯周治療から徹底的に行うというポリシーがあるかもしれません(私の場合も明らかに歯石の付着量が多い場合は歯石取りから行うことが多いです)。歯の神経を抜いて良いことなんてほとんどありません。歯の寿命は短くなりますし折れやすくなりますし差し歯は外れたりしやすいですし根の先が膿むこともあります。苦労してむし歯を取ってギリギリ歯の神経を保存できた患者さんはたくさんいますし、定期検診で特に症状が出ていないことを確認できた時は毎回とても嬉しいです。あの時処置してて良かったと思うことが多々あります。

  「成長したいなら楽な仕事より面倒な仕事を引き受けよ」という名言をどこかで聞いたことがあります。詠み人知らずですが、好きな言葉です。この格言には一面の真理が隠されています。日々の歯磨きとフロッシングでむし歯や歯周病は予防可能です。面倒だとは思いますがみなさん予防してください。歯科との正しい付き合い方はたまに歯石を取りに行くくらいが1番コスパもタイパもいいです。そんな事を書いたら先生たちが儲からなくなるじゃないかと思うかもしれませんが、いいんです儲からなくて。むし歯治療は学問として無くなればいいと思っている派なので。
やよい軒の特からあげ定食のサラダとトマトと冷奴と味噌汁を2分で処理し、残った丸々としたからあげ7個とご飯を眺めながらそんな事を思うのでした(本当は米もあまり好きではありません)。

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